ハウスO
House O
丘陵のあいまに水田と住宅が混在する敷地。地面に滴を落としたような形を敷地に広げて、寸足らずの寄棟の屋根をかける。壁が屋根から四周ではみ出て、はみ出た先にちいさな庭がにとりついている。なだらかな山の景色になじむ緩勾配の屋根は、陸棟と隅棟のところで小平(こひら)を切って上下に面を反らし、ちぎれた屋根のむこうに天井や空がかいま見え、ひだ状の塀が出入りする奥行きのあるファサードがあらわれる。内部は、ハイサイドが照らす中心のダイニングスペースを8つの下屋がかこみ、固定しきりのない下屋のスペースが軒先に向かって小さなスケールにしぼり込まれていって、小庭で開放されてその向こうの景色につながる。この住宅は、中心のダイニングスペースと下屋群の境界は、「コート・ハウス」で試みた発展的なプロトタイプと私たちは捉えている。ただしコート・ハウスのように母屋の壁面と、それに穿たれた下屋の開口という明快な境界を取っていない。コート・ハウスの母屋と下屋を仕切る壁という「面的なもの」から、棟木または大梁という「線状のもの」の要素によって母屋と下屋はつながれ仕切られる。この線的な境界は、下屋と母屋とを構造としてつなぐ縫合ラインそのもので、コンクリートブロックや竹穂垣、60角の杭等、全く異なる素材でつくられた「部分」が唐突に接合されている。ちょうど生理的なものと機械的なものがひとつの境界面で働きを連携させるサイボーグのように。全体から部分、細部へと至る、構築的、序列的な建物の関係(この場合は母屋と下屋という強いハイアラーキー)を、性能をただつなぐためだけの部分どうしの関係から考えた結果が、全体を弱め、部分同士を際立たせる。結果として「コート・ハウス」でめざした下屋の中央部への滲み出しは自然と起こるのである。